隼地区まちづくり委員会

西村恵美子/植田幸秀/中山勝恵/淀瀬秀子

一人一人の“健康”が、このまちをつくる。


隼Lab.の1階には、カフェや、子育て世代の女性が中心となって運営するショップなどがあり、日常的に多くのお客さんで賑わっています。鳥取市内中心部から隼Lab.までは車で30分ほど。鳥取市内からお越しの方はもちろん、休日となると、大阪や京都などから来られる方も多くいらっしゃいます。

しかし、町外からのお客さんを受け入れるだけではなく、地域の活動の拠点になっていることもまた、隼Lab.の特徴の一つです。毎週火曜日、隼Lab.の1階のコミュニティスペースを会場に活動しているのは、隼地区まちづくり委員会(以下、まちづくり委員会)「すまいる隼」です。“隼地区”の高齢者の方々を対象に、一人一人の“健康”を守る活動に取り組んでいます。まちづくり委員会として活動する植田幸秀さん、中山勝恵さん、西村恵美子さん、淀瀬秀子さんの4名(写真左から順)に、お話を伺いました。

Text:松本凌
編集:諸岡若葉
Photo:松本凌(活動風景)
諸岡若葉(取材風景)

 

老いを迎えても、自分で生活するための“健康”

「まちづくり委員会」は、隼地区だけでなく八頭町内の各地区に作られている委員会です。民生委員や町役場などと連携しながら、その地区に住む高齢者の方々を対象とした活動に取り組んでいます。そのような中で、隼地区のまちづくり委員会の大きな特徴は、隼Lab.を活動の拠点としていることです。

毎週火曜日、「すまいる隼」の活動が始まる時間になると隼Lab.の駐車場には参加者のみなさんを乗せた送迎の福祉車両が到着。近所の方の中には、自分で歩いて来られる方もいらっしゃいます。

40~50脚ほど用意された椅子が埋まると、まず最初に始まるのは「いきいき百歳体操」です。音楽に合わせて、まちづくり委員会のスタッフも一緒に、ゆっくりと体を動かします。血圧測定や、定期的に行なっている体力測定などが終わると、お楽しみの出し物や季節の行事などのレクレーション、そしてお茶を飲みながらのおしゃべりタイム。カフェが定休日で少し静かな隼Lab.に、元気なおばあちゃん・おじいちゃんの笑い声が響き渡ります。

 

取材のお時間をいただいたのは、活動日である火曜日の夕方。隼Lab.の1階にあるまちづくり委員会事務所に伺うと、皆さん一息ついて、事務作業や活動の振り返りをされているところでした。

まず、まちづくり委員会はどんな目的で活動している委員会なのでしょうか。

 

中山
隼地区まちづくり委員会は、隼地区で暮らす高齢者の方々の健康を、地域の中でサポートしていくことを目的としている委員会です。
高齢者の皆さんにとっての”健康”っていうのは、人と比べてどうっていうことではないんです。自立した生活を送れるように、自分のことは自分でするということ。例えば寝たきりになってしまわないように、食べる・排泄するということだけでも、命ある限りは自分でやろうっていうのも、その人にとっての“健康”。歳をとれば少しづつできないことが増えていくけど、少しでも自分の力で生活しようっていうこともその人の“健康”だと考えています。

 

西村
高齢者の方々には、いつまでも元気で、この住み慣れた隼の地で過ごしてもらいたいです。そのためには、一日でも長く自分のことが自分でできるように、いきいき百歳体操や認知症予防の活動も、一人一人が元気に隼で過ごすための活動です。

 

植田
定期的に実施している体力測定では、参加者それぞれに個人の結果をお渡ししています。嬉しそうに、こそっと結果を話してくれる人もいるんですよ。歳を重ねても、自分の体に良い変化が起きることは嬉しいんですね。活動に参加している高齢者のみなさんが、少しづつ気を許してくれて自分のことを話してくれるのは、こちらも嬉しいです。

 

まちづくり委員会の活動が目的とする健康には、2つの面があるように感じます。

一つは、歳を重ねる中で“衰えていく”部分も受け入れるということ。定期的に実施されている体力測定の結果はもちろん、日々の体操やレクレーションの中でも、それぞれが自分の体や心の変化や、今の状況を受け止めるきっかけになっているように感じます。

もう一つは、同時に小さな“いい変化”にも、気づき喜ぶということ。一人では、自分自身の体や心の小さな変化に気づきにくかったり、気づいたとしても見過ごしてしまうことが多いと思います。

 

西村
私は民生委員をしていますので、まちづくり委員会の活動「すまいる隼」が始まる前は、地域に住む高齢者を一軒一軒訪問していました。現在は、「すまいる隼」に参加する人は週に一回、様子を見ることができます。

今も訪問や見守りは続けていますが、自分から週に一回出向くのとでは、高齢者の方の気持ちも全く違うと思います。訪問での見守りは、する側もされる側も気を使いますが、「すまいる隼」だと気を使わずにみんなと楽しくおしゃべりする機会にもなっています。

 

淀瀬
活動が終わった後はスタッフで集まって、参加者一人一人の体調や気持ちの様子を情報共有しています。欠席されていたり、何か気になることがあれば、声をかけに家を訪問したり、八頭町役場の担当課に連絡するようにしています。

 

植田
ただ体操をするだけなら家で一人でできるけれど、一人でやっても楽しくないから続かない。みんなで集まってやることが楽しくて、楽しいから継続する。一番心に刺激を受けるのは、人と会って話すことなんだと思います。

 

楽しむ気持ちと、小さなお金の流れが生む継続。

まちづくり委員会の活動では、委員会の方以外にもサポートに来ている方々がいらっしゃいます。体操に使う用具の準備や会場の設営・片付けなど、委員会の方だけでは大変な作業も、委員会の方々とサポートの方々とで和気藹々と取り組んでいらっしゃいますよね。

 

淀瀬
サポートしてくださっているのは、推進委員の皆さんです。月に二回以上は、活動のお手伝いに来ていただいています。推進委員の皆さんも私たちまちづくり委員会の職員も、お仕事として取り組んでいるので、町から報償費をいいただいています。

もちろん、それだけが目的ではなく、参加して楽しい、仕事として取り組むという気持ち、どちらもあるから続けていけるんではないでしょうか。

 

西村
参加者の皆さんが和気あいあいと楽しそうにしていらっしゃる笑顔を見ると「よかった」と思います。私たち自身も楽しみながらやっています。

 

参加されているご高齢者の方々にとって、まちづくり委員会の方や推進委員の皆さんは馴染みの顔。一人暮らしや、高齢夫婦での二人暮らしの方も多い中で、安心できる存在でしょうね。

まちづくり委員会が高齢者の皆さんに必要とされ、何より毎週の楽しみとして継続してきたことについて、その働きにきちんと報償費が支払われているという仕組みも興味深いです。

 

中山
参加するご高齢者の皆さんには、一回につき200円の参加費をいただいてます。毎週火曜日に開催しているので、毎回来られる方は月に4~5回になりますから、月に1,000円くらいを支払っていただいていることになります。参加費無料じゃないんですが、それでも毎週、たくさんの方に参加いただいています。

植田
地域にはまちづくり委員会の他にもいろんな団体があります。私もこれまでいろんな団体や活動に参加してきたけど、その中でも特にまちづくり委員会は、人と人との交流の機会づくりがうまく継続していると思います。

 

「継続させる」ということはシンプルですが、実は何よりも難しいことかもしれません。特に「福祉」で束ねられる分野においては、継続という言葉の持つ意味は深いものです。自分の力で生活することを“健康”とするならば、そこにゴールはありません。少しでも自分の力で生活できる状態が継続することこそ、目指す姿なのです。

サポートする人も、そしてサポートを受けながら自らの健康づくりに取り組む高齢者の方々も無理なく継続していくために、感謝や思いやりの気持ちのやりとりの中にきちんとお金の流れがあること。それもまちづくり委員会の活動がここまで継続し、地域の高齢者の皆さんのよりどころとなっている理由なのかもしれません。

 

 

住民が使ってこそ、地域の拠点になる。

まちづくり委員会の皆さんは、子供の頃から隼地区で育ち、慣れ親しんで来た方々です。もちろん、隼小学校の卒業生でもいらっしゃいます。長年、自分たちの故郷として隼地区を見て来た中で、特にここ数年はどのような変化を感じていらっしゃるのでしょうか。

 

植田
一番の変化は、子供の数が減り、小学校と保育所が同時に閉校・閉所することになったことです。小学校や保育所がなくなってしまうと、子供はもちろん、その親との交流も減ってしまいました。以前は子供の顔もその親の顔もわかるのが当たり前だったのに、現在はわからない状態になりつつあります。そのような中で隼Lab.ができて、子供から大人まで様々な世代がこの隼地区に出入りするようになったのは、地域としても大きな変化だと思います。

学校というのは、いわば地域のシンボルのような存在ですね。隼小学校が閉校し、そしてその場所が「隼Lab.」として新たな場所に生まれ変わったことは、地域にとっても大きな出来事であったと思います。そのような場所に、まちづくり委員会も拠点を置くことになったのには、どのような経緯があったのでしょうか。

 

中山
他の地区のまちづくり委員会の多くは、同じく閉所になった保育所を拠点に活動しています。隼地区まちづくり委員会も、最初はほかの地区と同じよう閉所になった保育所を使おうという話もあったんです。でも隼Lab.をつくるという話を進めることになった中で、まちづくり委員会の拠点も隼Lab.に置こうと決めました。隼Lab.は、地区内外の子どもから高齢者まで、様々な世代が出入りする場所になると思ったからです。

 

隼地区の住民の皆さんとしては、どのように感じられていたのでしょうか。

 

中山
まちづくり委員会の活動も同じでしたけど、実際に物事が始まったばかりのうちは、多くの人が「何かしているな」って遠くから見ている状況。計画段階では正直、住民の皆さんの多くが他人事のように感じていたと思います。

それが実際に隼Lab.としてオープンすると、段々と「ちょっと行ってみようかな」と思うようになって、今では少しずつ住民の間でも、隼Lab.のことが話題になることも増えてきました。

 

隼Lab.という新しい拠点が、少しづつ地域の住民の皆さんにも馴染みのある存在になりつつある今。まちづくり委員会の皆さんは、まちづくり委員会の活動以外でも、先頭を切ってこの場所を利用してくださっています。

先日は、隼Lab.1階のCafe & Dining Sanに淀瀬さんの同級生が集まり、同窓会も開催されました。隼小学校を卒業した方々が、隼Lab.になったこの場所に集まり大声で笑い合い過ごす姿は、まちづくり委員会の活動風景とも重なります。時間とともに、このような風景が重なっていく中で、地域の住民のみなさんにとっても隼Lab.が大切な場所に育っていくのではないでしょうか。

 

 

自分たちも、隼のおじいちゃんおばあちゃんになる。

ここまで、まちづくり委員会としての活動やそのあり方についてお伺いしました。最後に、お一人お一人が感じていらっしゃることや、今後の活動についての考えをお聞かせください。

西村
平成28年10月にまちづくり委員会を設立して、活動を始めた頃は今より少ない参加者数でした。活動を続けて行くと参加者は減っていくだろうと思っていたのですが、今は毎回40人以上が参加してくださいます。「すまいる隼」でおしゃべりしていると、一人一人がとても楽しそうです。それを見ていると、高齢者の皆さんにとって、週に一回こういう場所があることがいいんだなあと思います。

 

中山
私自身も、親と一緒に暮らしたり、家族の看取りも経験して、私なりに「家族ってこういうものなのかな」って考えていました。でも他の家族をみると、本当にいろんな家族があります。必ずしも暖かい家族ばかりではない。家族の中でも、歳を重ねて人の手を必要とする立場になったら、人として見られない扱いを受けている人もいます。介護施設で働いていた時に入院してる患者さんのお見舞いに行くと、やっぱり「帰りたい」って言われるんですね。「でも一人暮らしだから、帰っても誰も家にいないでしょう?」って聞くと、患者さんは「いいや、施設に帰りたい」って。そう言われた時に、「私の仕事ってこういうことか」って思いました。その人にとって“帰れる場所”っていうのは、必ずしも家ではない。私たちがいる施設も、帰れる場所になれるんだと気づきました。

介護の仕事もまちづくりの活動も、全然予期しないことが起こります。机の上の勉強じゃなくて、現実は全然違うことが起きます。だからまずは深呼吸。相手はモノではなく、人です。人と関わりながら、日々が学習です。

 

植田
実は去年、八頭町と社会福祉協議会が福祉計画を見直しました。新たな福祉計画の中では、障がい者や子供たち、あらゆる人が対象になっています。その中ではまちづくり委員会の役割に期待される部分も多く、これからは高齢者だけでなく新たな対象についても、どう活動して行くか考えなければいけません。

淀瀬
まちづくり委員会の活動を通して、いろんな人と関わり合えるのは楽しいし、その経験が全て自分の肥やしになっています。これを今のチームでずっと続けていけたらいいなと思いますが、私たちも歳を重ねていくわけですから、そういうわけにもいきません。それは今後の課題です。活動を続けていくためには、次の世代の人たちに、少しずつ引き継いでいかないといけません。そのためには、その人たちが活動しやすいように、運営の在り方も変えていかないといけない部分もあると思います。

 

自立して生活するための体の健康と、楽しく生活するための心の健康。

まちづくり委員会の取り組みは、このふたつの“健康”を守ることが、それぞれの暮らしを育んでいくことにつながっていくことを示しています。

高齢者の方々一人一人が、自分自身の“健康”と向き合い、少しでも「自分の力で生活しよう」という心持ちを持てれば、周りで支える人たちの負担も減ります。それは形として目に見える変化ではないかもしれませんが、少なくともこの地域で生活する一人一人にとって前向きな動きであることは確かです。

今、地域を”健康”で底上げする仕組みを継続することが、隼地域というまちの未来をつくっていく。まちづくり委員会のまちづくりの意味をやっと理解できたような気がします。