藤田芳美

cocoto+

子育て世代の女性が、自分のために集える場所を、自分たちで作る。


隼Lab. の1階にcocoto+(ココト)というお店があります。お店に入ると、並んでいるのは手作りのアクセサリーや、布製品、パッケージからもこだわりを感じる食品など、ジャンル問わず様々な商品。奥のスペースにはベビーベッドもあり、赤ちゃん連れの女性が店番を務める日も珍しくありません。子育て世代の女性も参加しやすい“シェアオーナー制”という仕組みでお店を運営する、藤田芳美さんにお話を伺いました。聞き手は今年7月からの1ヶ月半、隼Lab.でインターンをした松本凌です。

Text:松本凌
Photo:松本凌(店舗内)
諸岡若葉(インタビュー)

 

母親としての経験が、子育てコミュニティをつくるきっかけに。

cocoto+は手作り雑貨やアクセサリー、安心して子どもに食べさせられる食品などを扱う雑貨店ですが、シェアオーナー制という特徴もあります。シェアオーナー制は、様々なスキルを持っている女性たちが、日替わりでお店のオーナーを務める制度です。シェアオーナーにはアロマセラピストの方や、花を暮らしに取り入れる良さを広める花育士の方などがいらっしゃいます。それぞれオーナーの日にアロマのワークショップやハーバリウムを作るワークショップなどを開催されています。運営スタッフもオーナーも、活動しているのは主に、子育て世代の女性たちです。

まずはじめに、藤田さんはどんな思いでcocoto+というお店を始められたのでしょうか。

cocoto+を始める前は、自宅の一室を使って、子育てをしている女性たちが自分のために集まれるコミュニティを運営していました。そこに来られる方とお話しする中で、それぞれが学んできたことや仕事での経験を活かせないまま子育て期間に入っている女性がいることに気が付きました。子育てが始まると子供にかける時間が増えて、自分の時間が限られてしまいます。その中で、一人一人がお店を持つことは難しいけれど、コミュニティで支援する以外にも何か取り組める方法はないかと考えるようになり、cocoto+を開業しました。

cocoto+は小売業ですが、物を売ること自体はcocoto+を運営する一番の目的ではありません。作品を売ることで作家さん自体を知ってもらいたいという気持ちが一番ですね。cocoto+が、作品を通して人をつなぐ仲介をできたらと思っています。

ご自宅で自らコミュニティを始められたのはどういった経緯だったのでしょうか。

元々は看護師をしていました。結婚して子供が生まれてからも転勤が多かったので、県内の様々な地域で暮らしていました。地域ごとに子育て世代の女性たちが集まるコミュニティがあるのですが、そのコミュニティが小さい地域が多いように感じました。子供に友達ができるように親が話しかけて努力する。それってすごく疲れるんです。私は県内だけの移動でしたけど、県外から移住されている方はもっと大変だろうなと思っていました。

ただ、違う子育てコミュニティに行ってみるとそこはコミュニティが開けていて、県外から来る人も多いからか、初めて訪れた私もすぐに受け入れてもらえたんです。こんな空間があったら喜ぶ人いるだろうな、これが子育てコミュニティにとっての”普通”になったらいいなと思いました。

その後地元の鳥取市内に戻ったときに、自分が思う子育てコミュニティがないなら、自分で作ればいいと強く思うようになりました。ちょうど自宅を建てるタイミングだったので、自宅の中にコミュニティスペースとして使える部屋も一緒に作りました。

 

隼Lab.のコミュニティマネージャーとして学び、cocoto+を開業。

隼Lab.には施設のご利用に関する案内や、イベントなどの企画運営をはじめ、隼Lab.全体のマネジメントを行うコミュニティマネージャーという役割があります。藤田さんはcocoto+を開業される前の約一年間、隼ラボでコミュニティマネージャーを務められていたとお聞きしました。

今後は仕事としてコミュニティを作っていきたいと思っていました。自宅でコミュニティを運営しながらも、コミュニティをつくる勉強のために、県外まで見学に行っていました。そんな中、これからどうしていこうか考えてるときに、鳥取市内で「トリコン」というイベントが開催されました。

「トリコン」は鳥取で活動する人を応援し、鳥取を盛り上げていこうというプロジェクトです。プレゼンターが自分たちの活動内容と合わせて抱えている課題を話します。それに対して、活動に賛同した参加者がジブンゴトに捉えたうえで前向きな意見を思いつくまま出し合います。出た意見はまとめて、今後の活動に活かしてもらうためのヒントとしてプレゼントします。私はその意見を出す側で参加しました。そこで隼Lab.の運営にも関わっていらっしゃる方に出会い、隼Lab.を見においでと誘っていただいて。それまでにも、こんなことがしたいという構想は頭の中にできていました。ただ元々看護師だったので知識もないし、どう始めたらいいか全然わからなかったので、勉強も兼ねて隼Lab.で働くことを決めたんです。

 

看護師のお仕事と全く異なるお仕事だったと思うのですが、実際働いてみていかがでしたか。

隼Lab.を利用する人は、子育て世代方からご年配の方まで幅広い年齢層が入り混じっています。その環境は看護師として病院で働いていた頃と一緒だと感じられたので、コミュニティマネージャーとして利用者の方々とコミュニケーションを取ることは自然にできました。ただ、今までデスクワークじゃなかった分、はじめて経験する業務も多かったので、日々勉強でした。隼Lab.コミュニティマネージャーを務めた期間、すごくいい経験させてもらいました。

 

スタッフ、オーナー、作家全員でcocoto+を作る。

cocoto+を立ち上げるとき、選択肢として様々な場所を考えられたと思います。隼Lab.ではじめようと思われたのはなぜですか。

隼Lab.でコミュニティマネージャーをしているときに、1階の部屋が空きテナントになっていて。そこに何か誘致しようという話の中で、私にやってみたらどうかと声をかけていただきました。お母さんたちが楽しむことが、子供たちや家庭に良い空気を作る、その流れを生みたいとずっと思っていました。そういうお母さんたちのコミュニティを作ること、その活動は意味のあることだと周りの方に言っていただいたこともあり、cocoto+をやってみようと思えました。

 

藤田さんは、コミュニティマネージャーを務めていらっしゃった時にも、それまでに築いてきたネットワークを生かして、子育て世代向けのイベントや企画を積極的に開催されていたと伺いました。

はい。cocoto+を立ち上げてからも始めの頃は、隼Lab.のコミュニティマネージャーも兼務してお仕事させてもらっていました。でも、どちらも中途半端になってしまっている気がしていたので、しばらく経ってから隼Lab.のコミュニティマネージャーは退職して、cocoto+に専念することにしました。

cocoto+では自分の活動を自分で伝えるシェアオーナーのほかに、店舗スタッフの方が運営に携わっています。スタッフの方は置かれている商品やその作家さんの説明、商品の陳列、販売などを行っておられます。どんな方がスタッフとして働かれているのでしょうか。

店舗スタッフは、以前私が自宅でやっていたコミュニティに来られていた方や、子供を連れて月に数回だけでも仕事がしたいという方々が務めてくれています。cocoto+は働いている人のほとんどが子育て世代のお母さんたちなので、他のスタッフの気持ちがわかります。みんなお互いさまで、例えば子供が熱を出して急にシフトに入れなくなっても、正直に助けを求められる関係性ができています。周りに気を使わなくていいから気持ちよく働けると言ってもらっています。また、子連れでも働けるようにお店の真ん中にベビーベッドを置いているんですよ。スタッフの子供やお客さんのお子さんが寝ています。なかなか他のお店で見ない光景ですよね。

 

cocoto+を運営する中で、藤田さんの役割を教えてください。

私は自分で作った作品を販売したいと思っている人の発掘や自分のスキルを使いたい人とそれを求める人をつなげることがメインです。新規で作品を取り扱ってほしいというご相談をいただいた時も、毎回私が面接をするようにしています。本気の人と活動したいと思うので、なぜそれを始めたのか、その活動を通じて何をしていきたいか聞くようにしています。私がその作家さんに共感したことをスタッフとも共有して、スタッフが自分の口で言えるようにしています。お店に立って作品や作家さんを人に広めることはスタッフに任せられるので、作家さんの発掘などは私にしかできないことだと思います。

 

cocoto+だからできることを、事業として成長させる。

cocoto+をオープンして一年経った今、どんなことを感じていらっしゃいますか。

隼Lab.にはカフェやシェアライブラリーなどcocoto+以外の施設もあって、隣のカフェで注文してそれを待っている間にcocoto+を覗きに来てくれる方もいれば、お母さんがcocoto+でモノづくりをしている間に、子供たちがシェアライブラリーで本を読んでいたり。都市や中心部には絶対にない空間だと思います。グラウンドで子供を遊ばせている間にゆっくりと買い物ができるということもありますね。来られたお客さんが「今までは子供を連れて雑貨屋さんには絶対に行けなかった」とおっしゃっていて。子供が商品を触って壊すといけないし、買い物を楽しむ間もなくすぐお店を出ないといけないのだと思います。そういうお客さまの声から、cocoto+だからできることに気づかされることも多々ありますね。

今後、cocoto+を続けていく中での目標はなんでしょうか。

開業して一年経った今、自分の経営についての知識の少なさを痛感しています。目の前にいる人をサポートしたい、並走したいと思っていても、私自身が不安定では一緒に走りきることができません。私自身の目標の一つは、まずしっかりと経営を学び、cocoto+に関わる人たちに活かしていくことですね。そして事業としても、自分たちのミッションに向けてしっかりとした基盤を作っていきたいと思っています。

また、市内から離れたこの隼Lab.という場所でも事業として成り立つように、cocoto+の収益や集客の方法をもっと分析して地道に丁寧に情報を出していきたいです。

必要としている人に必要なものがcocoto+を通してつながっていく。そういう場所になりたいですね。

 

「お母さんたちが自分のために集まれる場所を作りたい」その思いを実現させる場所、cocoto+。ここに様々な人が集まり、人と人、人とモノが繋がっていく。それは藤田さん自身が子育てをしながら自身の目標に向かってたくさんの人やモノと関わり、繋がってきたからなのではないでしょうか。看護師、母親、隼Lab.コミュニティマネージャーを経験されている藤田さんだからこそ作り出される空間だと感じました。

 

<INFORMATION>
▶︎cocoto+ ホームページ
▶︎cocoto+ facebook