東口善一
地域に新しい風を迎え入れる、隼の“仲人”。
株式会社トリスマ 代表
家を売る営業マンから、家の買い方をサポートする新業態への挑戦。
2019.03.11
Text:諸岡若葉
Photo:坂田綾華
隼Lab.の2F/3Fは、様々な働き方に合わせてご利用いただくワーキングプレイスです。法人プランと個人プランがあり、ここで登記をすることもできます。
今回は、コワーキングスペースを法人プランで契約し、起業にあたり隼Lab.の住所で登記もされている、「株式会社トリスマ」代表・露木智文さんにお話を伺いました。聞き手は、隼Lab.マネージャー。隼Lab.を日々観察しているマネージャーの視点から、露木さんを切り取ってお伝えします。
まずは、株式会社トリスマ(以下、トリスマ)の事業内容について教えていただけますか?
家を建てたいお客様と住宅会社の間に立って、家を建てたい方がそれぞれのご家庭に合った住宅会社を見つけられるよう、中立的な立ち位置からサポートしています。
今は住宅会社がたくさんあるので、お客様はその中から自分たちが建てたい家に合った住宅会社を選ぶことができます。しかし情報が溢れかえる中で、お客様は住宅会社それぞれの強みや、得意とする住宅のタイプなど、知りたい情報がなかなか得られないのが現状です。自分たちに合った住宅会社を選ぶために必要な情報や、客観的な意見を聞くことのできる機会もなかなかありません。そこを担っていくのが、トリスマの事業になります。
トリスマさんがされているような事業やサービスは、今までなかったものなのですか?
今少しづつ増えています。ただ、“鳥取”に限るとまだほとんどありません。
住宅会社や不動産会社といった家を売る側がそのようなコンサルティングをするというケースはありますが、うちは“完全中立”の立ち位置であることが最大の特徴です。特定の事業者との利害関係を一切持たずに独自に活動し、あくまで客観的な情報をお客様にお伝えすることをポイントとしています。
露木さんはこのトリスマを昨年(2018年)11月に起業されていますが、露木さん自身がこのような事業を始めるまでにはどのような経験があったのでしょうか。
以前は、関東地方で大手ハウスメーカーの住宅営業を担当していました。その後、地元鳥取で子育てをしたいという思いからUターンをした後は地元の工務店に勤めて、そこでもまた同じような仕事をしていたんですが、僕、昔から営業するのが苦手で。つい、本音が出てしまうんですよね。
営業が苦手な、営業マンだった!
はい。“家”という一生に一回の大きな買い物をするのに、お客様のご希望と完全に合っていない状態で「うちに決めてください」なんてことがなかなか言えなかったんです。営業マンとしては失格ですよね。
お客様それぞれの理想を尊重したいという思いが強いので、「いいですね、いいですね!」とお客様のお話を聞いてるうちに、最終的に「それならうちの会社は合わないと思います」なんていうことを普通に言ってしまうんです。そこが、一企業に勤めている立場としては良しとはされないし、葛藤がありました。
勤めるのを辞めて自分で起業をしようというきっかけになったのは、友人が家を建てることになったことでした。自分が勤めていた工務店に依頼をしてくれたのですが、その工務店だと友人の予算や希望に合わなかったんですよ。
工務店の一社員という立場からは、本当に自分が手伝ってあげたい人を手伝うことができなかった、そこに限界というか、面白みのなさを感じてしまって。
それをきっかけに、お客さんのニーズに合わせて適切に提案できるような仕組みを作りたいと思うようになったことが、起業への後押しになりました。
トリスマとして起業をされる際に、隼Lab.のコワーキング会員(法人プラン)になり、さらにここで登記もされていますよね。隼Lab.のことはどのように知ったのですか?また、起業をする立場からここを使う魅力というのは何だったのでしょうか。
鳥取にUターンしてきた後に、県内に住む知り合いから「八頭町に小学校を改装して隼Lab.っていう施設ができている」と話を聞いたのが最初です。実は自分自身が八頭高校を卒業したこともあって興味が湧き、「どんな施設ができたんだろう」という単純な好奇心で来てみました。
起業するにあたって隼Lab.を利用しようと思った理由はいくつかあります。
一つは、身軽に動けて、家賃も抑えられるということ。まだ鳥取にはほとんどない新しい業態を作ったので、これから事業がどう転ぶか読めません。いきなり大きなテナントを持つと、後から方向性を変えにくくなると思ったので、コワーキングスペースをオフィスにするということに大きな魅力を感じました。
もう一つは、異業種の方との交流です。僕自身が住宅業界に長くいたので、住宅業界以外の方との関わりが減ってしまっていて。様々な職種の方と日常的に出会えて、いろんな知識や経験を勉強できる場所に身を置きたかったので、隼Lab.はまさに人が集まる“学校”なのでいいなと思いました。
確かに!元々は小学校でしたが、隼Lab.となった今は、様々な世代が集う新たな“学校”かもしれませんね。
昨年11月に起業したのと同時に隼Lab.を使い始めたので、通い始めて3ヶ月になりますが、今の心境がちょうど1年生なんです。
1年生の時って、まだ学校に慣れてなくて、教室に入っても知らない顔がいてちょっとドキドキするじゃないですか。まさに今まだそういう感じなので、ここに来た時に諸岡さんや田中さん(隼Lab.マネージャーたち)がいるとちょっと安心します。でも、少しずつ知っている顔も増えてきて、求めていた異業種の方との横のつながりもできてきています。
トリスマさんは隼Lab.を会場に、家を建てたい人向けの講習会「おうちの買い方教室」も開催していますよね。そこも“学校”に通じるところがありそうですね。
起業すると決めた時から、家を建てたい人に事前の知識をつけてレベルアップしてもらえる機会を定期的に開催していきたいという思いがありました。隼Lab.には講習会の会場として使えるセミナールームがあるので、自分たちの拠点とする場所で講習会も開催できます。自分たちのやりたいこととマッチしていたことも、ここを利用しようと思った決め手ですね。
「おうちの買い方教室」が隼Lab.で開催されていることで、お客さんにも気軽に参加しやすいと感じていただけたらいいですよね。
お客さんに講習会をご案内するときには、「会場の隼Lab.にはカフェもありますよ」とか「夏は手ぶらでBBQもできるみたいですよ」などとご紹介しています。講習会に来ていただくことで、他にも楽しめることがあるとご提案できることは、とてもいいなと思っています。
講習会を定期的に開催し続けて、「家づくりの学びの場」がここにあるということが定着していくと、お客さんにも安心感や信頼を持っていただくことにつながると思います。まずは、やり続けることです。
住宅の営業マンという立場にいた露木さんが起業され、今は「おうちの“買い方”」の教室を初めているということも興味深いです。売り方でなく、買い方。住宅業界であることは変わっていませんが、家づくりに携わる立場や視点は大きく変わっていますよね。
自ら起業してまでも、自分の思う家づくりに尽力しようと決められたのはどういう経験や思いからだったのですか?
僕は、失敗したことや悔しかったことが経験になっているんです。
大学卒業後の2年間、建設のコンサルタント会社で公園の設計や土地区画整理といった、まちをつくる仕事のアシスタントをしていました。公園やまちを使うのは、そこに住む人、訪れる人です。でも当時の僕が仕事の依頼主として相手にするのは、区や市などの行政。実際に使う人の意見を聞くことができないので誰のためにやっているのかわかりませんでした。完成した後も、「よかったよ」も「ここが悪い」という意見も聞こえてこない。温度が全く感じられない立場でものをつくるということに疑問を感じていました。そんな経験から、住み手と一緒にその人が住む家をプロデュースするという住宅の営業の道に入って行ったんです。
お話を聞いていると、露木さん自身、“住宅業界”というよりも「家」やそこに住む「人」に興味関心があるのではないかと感じます。
たぶん僕ね、変なんですよ。
人の“生活”を知りたくなっちゃうんですよね。その人が普段どんな暮らし方をしているかを深く聞いていって、(家を建てるのは)本当にその土地でいいのか、この間取りでいいのか、この配置でいいのか、お客さんと話しながら少しづつ「家」を作り上げていく過程が好きなんです。そこに、人が生活していく上で切り離せない家をつくる楽しさを感じて、家づくりのお手伝いを続けています。
露木さんの思う家づくりの楽しさが伝わることが、きっとお客さんにとっても、安心や信頼に繋がると思います。
最後に、これは個人的な興味でお聞きしたいのですが…大学では何を勉強されていましたか?
造園です。最初は、庭や公園をつくる仕事がしたかったので。
学生だった当時、人間観察をする授業があったんです。例えば、公園に入ってきた老夫婦が、その公園内でどういう動きをしていくのか追跡してレポートに書くんです。ここで立ち止まったから、ここにベンチがあることにどういう意味がある、みたいなことを考えるんです。人の行動や、人が作り上げるものが、どのようにその人の生活と結びついていくかということを考えるのが好きで、面白くて、楽しい!そこから今度は、“生活”と切り離せない「家づくり」における提案をしたくなってきたのが、僕自身の背景ですね。
起業した今は、自分の提案したいことが提案できる。だから今、すごくスッキリしています。
中立な立ち位置から家づくりのサポートをする、トリスマの事業。その背景には、営業マンでありながら「お客さんのための提案がしたい」という葛藤を見過ごせなかった、露木さんがいます。
家を建てたい人と住宅会社の間に立ち、新たな立場から“家づくり”に取り組む、露木さん。
「今、スッキリしています」という言葉には一切の淀みもなく、その視線の先に広がるたくさんの人々の生活を、私ものぞいてみたくなりました。
<INFORMATION>
▶︎ホームページ
▶︎お家の買い方教室(2019/3/16.17)